それはこうして始まった
『もうこれ以上役者として上を目指す事はしない。』
私は27歳になっていた。
小さい頃から、芝居が大好きだった。物心がついて、ジブリの作品を観た時の衝撃。あの時に声優になると決めた。
と、いいつつも成績の良かった私は進学校へもりもりと進み、大学に入ってようやく大好きだったミュージカルを本格的に始める。
遅かったな~。もっと堂々と、これが好き!やりたい!と言える性格だったら良かった。
幼少期からずーっとリーダーだった。それが好きだったし、向いてたし。
でも、地味だけどもくもくと好きな事をやれる人、目立ってても人前で恥がかけてそこから学べる人が本当にうらやましかったな。
私は失敗が怖かった。人前で話せるのに、めっちゃ人見知り。すぐゲリピーになっちゃうタイプ。
先生にめっちゃ気に入られる生徒。後輩に慕われる先輩。お母さん的存在の同級生。
それが私。なかじま ひろみ(仮)の半生てな訳ですよ。
でも、芝居は本当にマジだった。大好きだったし、熱中していた。
声優の養成所に通って、2年行く所を大抜擢の飛び級で1年で終わらせて、事務所の舞台に出たけど、声のオーディションでは落ちて事務所に入れなかった。
一緒に舞台に出たプロの方にもいい評価もらってたし、あのままバイトして食いつないで、地道に舞台でやっていくという手もあったかも。
そうやって今でも続けている当時の同志たちもいる。
私は、限界を痛感していた。ほんと、文字通りの痛感。痛かった。
『よい子』の仮面をどうしても外せない自分。ぽっちゃり体形なのにめっちゃ動けたり、変顔できたり、そういう所が自分のウリになっていくんだとわかってたけど、そんな自分が好きになれない。だからウリが使えない。
声優になりたいのに、自分の声が好きじゃなかったし。
好きになってあげて、活かせる方法をもっと研究できたら良かったんだけど、あのころは自分が嫌いすぎてできなかった。
てな訳で、挫折ですわ。
小さい頃からずっとなりたかったからさ。何したらいいかわかんなかった。
大学の同期はもう就職して5年も勤務してて、でも私はただのフリーター。
良い子の仮面も、そろそろ限界でしょ。27歳、早稲田大学卒業のフリーターですよ。
わかんなすぎて、路頭に迷った。
そんな時、今では声優としてちゃんと活躍している友達のさとみが言ってくれた。
「なかじーは海外とか興味あるんじゃなかったっけ?どこか行ってみてもいいんじゃない?」
なぜかその言葉はとても心に染みた。
海外に、行ってみよう!!